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2000年7月 バスラマインターナショナル  Vol.11 掲載


降雪地のバス事業者にとって、 夏を迎えようとするこの季節は雪との戦いを終え、 一息ついた時期ではなかろうか。 仙台に本社を置くジェイアールバス東北(以下 JR バス東北)も、 エリア全域が降雪地であるだけに、 冬場は雪対策に明け暮れたという。 その一方、 車両づくりには雪道の安全を踏まえた独自の思想が貫かれているとも聞く。 ここでは安全装備を中心とした同社の車両づくりや安全教育などについて、 同社整備安全部の菅原伸二課長にうかがった。



●脱スパイク化の動きの中でリターダに注目
 JR バス東北は高速路線バス 77 台・一般路線バス 182 台・貸切バス 80 台を保有している。 このうち高速バスは現在 25 路線。 首都圏などへの長距離路線に加え、 近年は東北エリア内を結ぶ短・中距離路線の拡充でバス事業の中核に成長している。
 JR バスの前身は言うまでもなく国鉄バスであり、 国鉄仕様と呼ばれる車種を超えた独自の仕様が特徴だった。 分割民営化で国鉄仕様がなくなり、 車両づくりには戸惑いもあったと想像するが、 1980 年に国鉄東北地方自動車部に入社以来、 バス一筋に携わってきた菅原氏は「地方自動車局の場合、 国鉄本社の決めた仕様や車種をそのまま受け入れてきたわけですが、 自分達で仕様決定する段になると、 戸惑いよりもむしろ、 カタログを基本に降雪地という環境を重視した選択ができて、 やりがいはありました」という。
 JR 東日本のバス部門として 1 年間経過した後の 1988 年 4 月に、 バス事業者として本格的なスタートを切った同社は、 経営の合理化とともに車両の改善にも積極的に取り組むが、 ほどなくタイヤの脱スパイク化への対応を余儀なくされる。
 「 1990 年代初頭の脱スパイクタイヤ化は、 環境保全のための義務として受け止め、 それまでと変わらない安全運行を実現しようと、 全社を挙げて取り組みました。 “安全第一”は国鉄バス時代からの目標であり、 当社の理念でもあります。 脱スパイクを機に、 安全運転につながる装置ならば積極的に採用していこうという機運も生まれました。 そうした中で注目したひとつがリターダでした」
 同社では 1987 年に導入した貸切車(日産ディーゼル DA 67 UE )で標準装着の電気式リターダを経験しており、 ドライバーの間からはリターダへの高い評価が得られていた。 従来の排気ブレーキだとエンジン回転数やギヤ段数に応じて制動力が決まるが、 このリターダは回転数やギヤにかかわらず減速できるほか、 特に盛岡以北の東北道に多い峠越えなど、 長い下り坂でフットブレーキ能力が温存できることを含めて安全のマージンが高まり、 冬季や夜間の走行を中心に、 ドライバーの負担が軽減できるというメリットがあるからだ。
 そのため同社ではほかの車種へのリターダ展開も期待していたが、 三菱がエアロバスのフルモデルチェンジを機に流体式リターダ( NRS 製)をオプション設定、 続いて日野も流体式(同)を、 さらにいすゞが永久磁石式を順次設定したことで、 1993 年式以降の高速車・貸切車にはすべてリターダを装着している。 現在、 高速車のうち 37 台、 貸切車のうち 50 台がリターダを装着しているが、 約 55% がリターダ付であることには驚かされる。
 「リターダは車種ごとに設定されている方式が異なります。 もちろんそれぞれ一長一短あり、 たとえば流体式は効きは一番強いがオイル交換などメンテナンスで若干手間がかかる、 永久磁石式は効きは流体式ほどではないが、 軽量でメンテナンスフリー、 といえます。 しかし我々は“この方式が絶対”とは考えておらず、 今後もメーカーが設定する、 なるべく低コストのものを採用していく予定です」
 同社リターダの主力である流体式に対して、 ドライバーの評価を聞いてみた。 効きが強力でかつ制動力が 4 段階設定されているため、 どんな速度からも停止寸前までリターダだけで減速できると語る。 ただし通常は 1 〜 2 段を使用し、 その後はフットブレーキにより停止しており、 排気ブレーキは併用しないという。
 また降雪時期は、 圧雪路またはそれより状態のいい路面で使用するという。 制動力が大きいだけに、 アイスバーンではかえって危険を招きやすいためだが、 これまでの「雪道でリターダは不向き」という風評は圧雪路などには当てはまらないことになる。 リターダの使用で、 これまで前方や路面状態に、 より一層注意を払わなくてはならない山間路や夜間では特に負担が減ったというのが、 今回うかがった数人のドライバーに共通した意見である。


取材にご対応いただいた、 ジェイアールバス東北株式会社整備安全部の菅原伸二課長(左)と、 同社仙台支店の多田 繁課長(右)

●安全装備は様々な視点で
 「リターダだけでなく、 ABS / ASR や追突警報装置など、 安全走行に役立つ装置を先駆けて導入したのも、 当社の特徴といえます」と菅原氏。
 今でこそ高速・観光型のバスには標準装備となった ABS (アンチロックブレーキシステム)だが、 JR バス東北では脱スパイク化が具体化した時点で、 リターダ同様に対応策のひとつとして装着を始めた。 最初の装着車は 1990 年前期の日野 RU 638 で、 アイスバーンを含む雪道での効果が高いことから、 それ以降は全車に装着している。 また同社は ASR (アンチスリップレギュレーション)の装着にも積極的で、 1993 年以降採用している。 ASR とは滑りやすい路面で駆動力を制御し、 発進・走行時のスリップを抑制しながら直進性を確保するシステムである。 菅原氏によればその効果はドライバーが体感しにくいものの、 雪道の走行には効果的な安全設備としてとらえているという。
 高速道路では、 一瞬の隙が重大事故につながる可能性があるが、 これに対して JR バス東北では追突事故警報装置を 1991 年から高速車・貸切車に採用してきた。 この装置は居眠り・わき見などによる追突を防止する機器として開発されたもので、 たとえば 100 km / h で走行中、 前車との距離が 100 m 以下に縮まるなどして走行の安全が損なわれるような場合、 警報でドライバーに危険を知らせるシステムである。 最初は日産ディーゼルがバス・トラックのオプションとして発売し、 現在では 4 メーカーがオプション設定している。 本来ならばプロドライバーには“無用”とも思えるが、 JR バス東北ではリターダや ABS / ASR などと同じく運転に余裕を持たせるシステムとして注目し、 ドライバーに対しては「過信しないように」と指導した上で導入している。 一方ドライバーからは安全に寄与するものとしてスムーズに受け入れられ、 安全走行の範囲が耳でわかると好評である。
 ちなみに安全装備の採用と大きく関わるタイヤは、 脱スパイク化直後はオールシーズンタイヤも仙台地区などで試用したが、 冬も夏も期待した走行性能が得られず、 評価は低かったそうだ。 そのため現在はすべて冬用と夏用に分け、 冬用はスタッドレスに限っている。 またスタッドレスタイヤは耐磨耗性よりもアイスバーンでの性能を重視し、 すべて「氷上性能重視タイプ」を採用しているが、 いずれのメーカーも発売後約 10 年を経て完成度は高まっているようだ。


ダッシュボード右上に車間距離警報装置 の 設定スイッチ/ウォーニングと、 ブレーキ火災警報装置の 警告ランプが設置されている。 ブレーキ火災警報装置は 5 年ほど前のブレーキドラム発火事故に基づき、 オリジナルの安全装備として高速 ・ 貸切車に採用したもの

高速の最新車から、 日野セレガ FS KC-RU3FSCB 2000 年式。 盛岡支店に所属し、 仙台―盛岡間「アーバン」に投入されているミドルデッカー。 流体式リターダ、 ASR 、 車間距離警報装置(日野の商品名はニューセーフティアイ)などをオプション装着、 前扉折戸のガラスには左方視界を確保する熱線が組み込まれている





乗客定員 45 人の車内。 内装は基本的に標準仕様だが、 滑りにくい床材、 シート生地、 プリーツ付カーテンは JR バス東北の支給品

●それでも基本はドライバーの腕
 さてこうした様々な安全装置が用意されても、 安全運行の基本は何よりもドライバーの技量や判断といえる。 その基本をさらに磨くため、 JR バス東北ではドライバーの教育、 特に雪道での運転テクニックの向上に力を注いでいる。
 「代表的な教育が、 ドライバー全員に対し 1992 年から行っている“スリップ訓練”です。 これは毎年 1 月、 雪深い十和田湖の酸々湯(すかゆ)温泉の駐車場にバスを持ち込み、 1 泊 2 日の日程でブレーキングに関する実地訓練と座学を行うもので、 一部の新入社員を除き、 現在ほとんどのドライバーが講習を受けました」と菅原氏。
 雪の上でフルブレーキングするとタイヤはロックするが、 そうなるとハンドルは効かない。 しかし少しずつペダルを踏む“ソフトブレーキ”に変えればハンドル操作ができるようになる。 ドライバーにソフトブレーキとハンドル操作の兼ね合いを体で覚えさせ、 どのような路面状況にも対応させようとするのがねらいである。 最初はソフトブレーキができずスリップを重ねるドライバーも、 次第にソフトブレーキを体得し、 安全な停止ができるようになるとか。 訓練車両は廃車間近の経年車を用意し、 思い切った操作ができるような配慮もなされている。
 もちろん訓練を徹底しても、 冬季は常に雪に接するだけに軽微な事故は皆無とはいえないが、 訓練を始めて以降、 ドライバーの技量がさらに向上したことは、 同社の大きな財産という。


スリップ訓練の様子( 1994 年)、 ソフトブレーキがうまくできずタイヤがロックし、 雪の壁に突っ込むことも (写真 : JR バス東北)
本社から 各営業所の整備スタッフ全員に配布される 「メンテナンスリポート」。 車両 ・ 機器の故障やメンテナンスに関する報告書で、 地域差 ・ 個人差のない情報媒体として、 菅原氏が航空機のメンテナンス情報をヒントにつくったもの

●合理化・標準化も徹底的に
 このほか JR バス東北では、 車内事故防止の観点から滑りにくい床材の採用、 視界確保のための熱線入り扉ガラスの採用など降雪地ならではの仕様、 また雪とは直接の因果関係はないがブレーキドラムの発火事故の経験に基づく、 同社独自のブレーキ火災警報装置の採用など、 多くの安全対策を高速車や貸切車に施している。 それだけに車両導入コストは膨らむことが想像されるが、 軽減できる部分は可能な限り減らしているとか。 安全装備を別にすれば基本的にメーカーの標準仕様を尊重しており、 シフトはフィンガーコントロールよりもパワーシフトが多いのはその一例だろう。 また近年はハイデッカーより低廉なミドルデッカーの採用も進めた。
 菅原氏は「ドライバーには安全運転にベストを尽くしてもらう一方、 安全に寄与できる装備は可能な範囲で用意して運転をサポートしていく。 この方針は降雪地の事業者として、 今後も継続していきたいと考えています。 もちろんその他の部分での低コスト化が可能ならば、 前向きに取り入れていきたいものです」という。
 またバスメーカーに対しては、 ボデー・床下配管などの一層の防錆のほか、 安全性と低コスト化が両立できるフレキシブルな仕様設定も今まで以上に望みたいと語った。


高速用ハイデッカーの 1 台、 三菱エアロバス KC-MS829P 1998 年式。 秋田支店に所属し、 仙台 ― 秋田間「仙秋号」に投入されている。 こちらも流体式リターダなど 上記のセレガと同様の安全装備を備える

仙台支店のタイヤ倉庫。 冬タイヤへの交換に備え、 同社高速バスでは標準装備のアルミホイールも 予備品が準備されている

As the operator of the snow country, JR Bus Tohoku which mainly serves the Tohoku area has various measures to insure safe operations of their vehicles. Most of the measures were taken in the early 1990's when the spiked tires were banned, and to lighten the burden of the drivers who were forced to drive more carefully. The retarders have been equipped on most of their highway and chartered buses since 1993. Today, 55% of their highway and chartered busesare equipped with retarders. Those being highly rated for their efficiency are the liquid retarders equipped on Mitsubishi's and Hino's (manufactured by NRS=Voith), but they are more difficult to maintain compared to their magnetic and electric counterparts. The retarders are being utilized under snowy conditions (when the snow is packed and the conditions are good) as well except for the ice burn. ABS/ASR have also been utilize from the early stages because of their efficiency under the snowy conditions. The distance warning system has also been actively utilized to provide more security for the drivers. But, they consider the ability of the drivers as the basic element of safety, so all of the drivers have received training for slipping. The training allows the driver to experience stop straight. The training is very effective. The addition of safety equipment results in higher costs of the vehicles, so the costs have been reduced by utilizing standerd and simpler layouts.

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