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月間コマーシャルモーター 2000 年 6 月号掲載


 三菱自動車の新型スーパーグレート ・ セミトラクタに制動性および持続性に定評のあるフォイト製の流体式リターダ ( 販社 = ニッポンリターダシステム / NRS リターダ ) が設定 ( オプション ) された 。 マイナーチェンジを機に 、 追加設定されたリターダはプロペラシャフト横に設置する増速タイプの次世代型 。 今回同社の好意で次世代型リターダ装着の重セミトラクタを試乗する機会を得た 。 最大制動トルク 3200Nm ( 設計値 ) を発揮する大容量リターダの制動感はどんなものか-技術面の解説と絡めてその試乗インプレッションを報告する 。 ( 本誌編集部 )





 車両総重量 25t 車の市場浸透などトラックの大型化は 、 安全かつ確実に止まるブレーキシステムの見直しと表裏一体の関係にあり 、 主ブレーキの強化 ( 中期安全ブレーキ規制の適合 ) はもちろんのこと 、 各種補助ブレーキの有効性が改めて再認識され始めている 。 というよりも 、 補助ブレーキはいまや走行安全に不可欠な減速手段として位置づけられているといっても 、 過言ではない 。
 補助ブレーキには 、 排気圧を利用するポピュラーな排気ブレーキ 、 エンジン機構を生かしたエンジンコンプレッションブレーキ ( 例 = 三菱パワータード ) 、 流体式および電磁式リターダに大別 ( このほかウェット ・ ディスクなど ) される 。
 エキゾーストバルブを閉じるシンプルな構造の排気ブレーキは 、 軽くて安価なのが魅力だが 、 大きな制動トルクは望めず 、 騒音も大きいのが難点として挙げられる 。 エンジンコンプレッションブレーキはその制動能力の高さから最近は補助ブレーキの主流に位置づけられるようになっている 。
 とはいっても 、 車両総重量 30t 超の超重量連結車を減速しようとする場合 、 エンジンコンプレッションの反力だけでは力不足を否めない 。 フットブレーキの併用で減速をコントロールすることも可能だが 、 長い下り坂などでフットブレーキの踏み込みを繰り返せば 、 ライニングが過熱 、 フェード現象を起こしてブレーキが利かなくなるリスクが大きくなる 。 走行安全を考えれば 、 降坂走行時の減速コントロールはフットブレーキの使用をできるだけ控えるべきであり 、 それに代わる第 3 あるいは第 4 のブレーキが求められている 。  こうした背景を受けて注目されているのが専用の減速装置として開発されたリターダだが 、 リターダといっても 、 先に記したように流体抵抗を利用する流体式と磁力の反発を生かした電磁式があり 、 それぞれ一長一短がある 。
 電磁式は大きな制動トルクを発生するが重量が重くなり 、 消費電力も大きいため 、 日本では一部の特殊用途車両に使われているのに過ぎない 。 これに代わるものとして軽くて電気も使わない永久磁石式が開発されてから 、 大型&中型トラックで普及しているが 、 構造上大きな制動トルクを得るのは無理 。 セミトラクタ + トレーラといった総重量の大きい連結車にはとても対応できない 。
 三菱自動車が長期排ガスおよび中期安全ブレーキ規制適合に伴うスーパーグレートのマイナーチェンジを機に 、 重セミトラクタの FV-R 系に選択したのはフォイトの流体式リターダ 。 三菱はすでに高速系セミトラクタに最大制動トルク 2000Nm ( 約 204s・m ) のフォイトリターダ 「 R120 」 をオプション設定しており 、 フォイト製の採用は今回が初めてというわけではないが 、 新たに追加設定したのは最大制動トルク 3200Nm ( 約 327s・m / 設計値 ) を発揮する 「 R115HR 」 という次世代型の大容量リターダ 。 これは増速 ( H = ハイドライバーの意 ) して制動トルクを稼ぐ構造で軽量コンパクトなのが特徴 。 ちなみに 、 型式名の最後に付く 「 R 」 は右ハンドル車に対応する右置き型を示しており 、 いわば日本車仕様を意味している 。



リターダ ( フォイト製の流体式リターダ ) を ON すると 、
ビューンという音とともに車速が低下する






 三菱が重セミトラクタに 「 R115HR 」 を採用した理由は何なのだろうか ― フォイトの流体式リターダの構造とメリットを簡単に説明する 。
 流体式リターダの構造は 、 トルコン式オートマチックトランスミッションのトルクコンバータと同じであり 、 ロータとステータという羽根車を相対する形で設けている 。 リターダスイッチを ON にすると 、 走行中回転しているロータとステータの間に作動油を充填 、 油はロータの遠心力で加速されてスタータに送り込まれるが 、 ステータはハウジングに固定されているため 、 油は減速されて再びロータに戻る 。 これを繰り返すことで運動エネルギーを消費してロータを制動 、 ロータにリンクするプロペラシャフトを通じて車にブレーキをかける仕組みである 。
 特徴は 、 流体抵抗を使うことで発生する制動トルクが大きいことに加えて 、 走行中いっしょに回転しているのは軽い羽根車 ( ロータ ) のみでイナーシャが小さいことである 。 つまり 、 加速レスポンスのスポイルを最小限にとどめることができるため 、 燃費の悪化抑制に有利な構造である 。
 信頼性の点でも有利である 。 リターダは方式を問わず 、 温度上昇とともに制動トルクが低下してしまうが 、 熱放散性の高い水冷の流体式リターダは制動トルクの持続性に定評があり 、 リターダで車速をコントロールする降坂走行の信頼性は抜群である 。 それはフォイトリターダが日本市場で最初に採用されたのがラフテレーンクレーンなど重量級建機車両であり 、 現在でもこの分野では高いシェアを占めていることでも裏づけられる 。
 ちなみに 、 空冷の電磁&永久磁石式リターダは熱放散性がネックで長い時間あるい連続的作動に耐えられず 、 常に空冷を考慮する必要がある 。

トランスミッションエンドのプロペラシャフト右側に取り付けられたフォイト製の流体式リターダ 「 R115HR 」
リターダ本体に冷却水の太いパイプが接続されている 。 この配管の太さが温度上昇を抑えて制動トルクの接続を実現している 。

〈 増速対応で高い制動能力と軽量化を両立 〉

 流体式リターダにも弱点はある 。 エンジンのラジエータ冷却水を流用するため 、 装置取り付けに配管作業が必要であり 、 後付けには適さない 。 装置重量は約 65s ( R115HR ) と軽いが 、 冷却水容量が増えるため 、 全体としては結果的に重くなるのもネックである 。 構造的に装置が大きくなってしまうのが搭載性の点で難点だったが 、 それを解決したのが増速タイプの R115HR である 。
 従来のフォイトリターダはミッション組み込みタイプであり 、 プロペラシャフトの回転数が前提だったが 、 この R115HR はプロペラシャフトに設けたギアで回転を取り出して約 2 倍に増速させてリターダ本体に伝達する構造になっている 。 回転を増速させることで制動トルクを落とすことなく本体の軽量コンパクト化を実現しているわけであり 、 スペースの狭いトラックへの搭載性が大幅に改善されたことになる 。 また 、 リターダ本体をプロペラシャフト直付けから別置き型としたことで装着性も大幅に向上した半面 、 問題となるのがどこに置くかである 。 R115H は欧州市場を前提にプロペラシャフト左置きとして開発されたが 、 右ハンドル車には PTO の関係で左置きは搭載しにくい 。 このため 、 三菱が重セミトラクタに採用するのに際して右置きに仕様が変更されている 。










リターダの制動性能比較 ( フォイト製 / GCW50t )


 解説が長くなってしまったが 、 本稿の本題であるフォイトリターダ 「 R115HR 」 を装着したスーパーグレート重セミトラクタの試乗インプレッションを記してみたい ― 。  試乗を行ったのは三菱自動車喜連川研究所のテストコース 。 試乗車は鋼材など重量物運搬向けの重セミトラクタ 「 FV50LHR1N12 」 ( 6 × 4 / 後 2 軸駆動 ) で搭載エンジンは排気量 19V8 インタークーラターボ 「 8M22T1 」 。 最高出力 405kW ( 550ps ) / 最大トルク 2157Nm ( 220s-m ) を発揮する 。 トランスミッションは新開発 16 段トランスミッション 。 これに三菱独自のパワータードが組み合わされるほか 、 リターダとして上記に説明したフォイト製 「 R115HR 」 を装着 、 つまり補助ブレーキとしてパワータードとフォイトリターダのふたつが設定されている 。 連結総重量 50t 。
 ちなみに 、 リターダの最大制動トルクはドライブトレイン全体のバランスを考慮 、 リターダの設計値 ( 最大制動トルク = 3200Nm ) の約 9 割 、 2815Nm ( 287s-m ) に抑えているが 、 それでも 2800Nm クラスのリターダはトラックおよびトラクタ搭載用リターダとしては国内トップの数値である 。
 テストコースの路肩に駐車してあるスーパーグレートのセミトラクタを改めて眺めると 、 単車では精悍なイメージが強かったフロント回りのデザインが“やさしく"見える 。 積載 & 走行する道具として機能オンリーの平床トレーラとのコントラストがそう思わせるのかもしれないが 、 威圧感を漂わすことなく 、 かっこよく見える 。 それにしても 、 連結車は迫力がある 。 トレーラに積み込まれているウエイトを見て 「 GCW50t といえば大型単車 2 台分 。 車を信頼しなければとても走れないだろうなァ 」 。 加速性うんぬんよりも制動性能が優先されるべきだと改めて思う 。
 試乗はまず 、 車両実験部のドライバーにステアリングをお願いして助手席に乗り込む 。 助手席前のダッシュボードに補助ブレーキの ON / OFF にリンクする速度記録装置のデジタルモニタを設置 、 車速がモニタできるようになっており 、 周回路を走りながらパワータードやリターダを入れてもらって速度の変化を確認する 。
 最初 80km/h ( 16 速 ) でパワータードを1段目 ( 弱 ) に入れてもらうと 、 軽い減速感を感じる程度で車速はそれほど落ちないが 、 2 段目 ( 強 ) に入れると 、 減速感がやや強まって車速モニタの数字もなだらかに落ちていくのが分かる 。 80km/h を回復 、 今度はリターダを 1 段 ( 弱 / リターダはパワータード強と併用 ) まで入れてもらうと 、 強い減速感を伴って車速もがくんと落ちる 。 さらに 2 段目 ( 強 ) に入れると減速感がぐんと増してデジタル表示の車速の数字も目まぐるしく変わって直線的に減速されていくことが見て取れる 。
 データを処理したグラフを別図に掲げたが 、 これからも分かるように 、 リターダのスイッチを ON にすると 、 車速が直線的に落ちており 、 コンプレッションブレーキのパワータードだけとは車速変化の違いが一目瞭然である 。 数値は 80km/h から 40km/h までの減速時間はリターダ強で 20 秒を下回り 、 この間の走行距離は約 300m 。 連結総重量 50t という超重量級を走らせていることを考えると 、 この数値は“驚き"であり 、 最大制動トルク 2815Nm ( 搭載の設定値 ) を発揮するフォイトリターダ 「 R115HR 」 の成せる技である 。





 今度は自らステアリングを握って見る 。 速度が 16 速 80q/h でステアリングの左横に設けられているパワータード & リターダレバーを前方向へ押して順々に入れていくと 、 段階的に減速 、 3 段目つまりリターダの 1 段目に入れると 、 これまでとは違った強い減速感を覚える 。 この辺の感じは自ら操作していることもあってか 、 助手席で減速フィーリングを感じ取ったときよりも 、 確かな手ごたえ感といったものがある 。 さらに 4 段目 ( リターダ強 ) に入れると 、 減速感が一段と増して車速が落ち 、 ちょっと間を置いてスピードメータを見ると 、 針はすでに 20q/h 近辺を差している 。
 今度は車速 80q/h から一気にリターダ強を利かせると 、 リターダが回るビューンという音とともに強い減速感を感じると同時に 、 スピードメータの針がスーッと落ちてくる 。 フロントタイヤが踏ん張るフットブレーキのように前のめり感もなく 、 トレーラ側からの突き上げもリターダが利き始めた直後にわずかに感じる程度である 。
 トレーラに ABS が義務づけられているといっても 、 連結車の減速は気を使う 。 シフトダウンによる減速も 、 16 段という多段ミッションを考えると 、 飛びシフトのギア選択を誤ればエンジンのオーバーランが心配になる 。 その点 、 ギア選択に気を使わず 、 スイッチ ON / OFF で減速できるパワータード & リターダのメリットは大きい 。 加速と補助ブレーキによる減速を繰り返して周回を重ねるにしたがって 、 総重量 50t の超重量級連結車を走らせている意識が薄らぐほどである 。
 もっとも 、 フォイトリターダのメリットは平坦なコースではあまり体験できない 。 リターダ活用のメリットは下り坂をリターダだけで車速を一定にコントロール 、 安全に降坂走行できることであり 、 水冷で温度上昇による制動トルク落ちのないフォイトリターダの信頼性の高さは降坂走行でこそ発揮する 。 テストコースの試乗でそうした走行は物理的に無理だが 、 フォイトリターダの強い制動トルクの実力の一端は知ることができた 。

〈 ブレーキライニングの摩耗を大幅に抑制 〉

 リターダのメリットは 、 フットブレーキやシフトダウンを使わず安全に減速できるということだが 、 そればかりではない 。 リターダを使いこなすことで安全運転を促すと同時に 、 メンテナンスコストを抑制できる副次的メリットもある 。
 渋滞以外に止まることのない高速道路走行の場合 、 車間距離を十分に保って走行していれば 、 減速はあわてることなくすべてリターダで対応できるため 、 フットブレーキは冷却状態を維持 、 緊急制動の予測に対して安心していられる 。 また 、 ベテランドライバーは市街地走行でも減速主体をリターダでまかない 、 最後の停止操作でフットブレーキを踏む 。 リターダを生かした運転でブレーキライニング摩耗を大幅に減らすことができる 。 高速道路主体で拠点間輸送を行っているユーザーが大型車 ( 25t 車 ) にリターダ ( フォイト製 ) を装着 、 100万q 走行後にブレーキをオーバーホールしたところ 、 ブレーキライニングの摩耗はわずか 2o だったという実例も報告されている 。
 リターダは 、 燃費の悪化 ( 特に電磁式を指摘するユーザーは多い ) で逆風が吹いていることは否めないが 、 走行安全に不可欠な第 3 あるいは第 4 のブレーキである 。 特に車両総重量が大きい大型トラック & セミトラクタは走行安全対策の強化の観点から標準装着を望みたいところである 。





 一方 、 今回の試乗で新開発 16 段の INOMAT ( ファジィ制御機械式トランスミッション ) 搭載車もドライブすることができた 。 試乗車の仕様はリターダ装着の試乗車と同じでトランスミッションだけが 16 段 INOMAT が搭載されている 。
 先に試乗したリターダ装着の重セミトラクタの場合 、 8 段 × 2 ( ハイ / ロー ) でシフト操作に慣れが必要であり 、 慣れるまでは図太いトルクに支えられた観を否めなかったが 、 その点 、 INOMAT は実にイージーである 。 発進は例によってクラッチ操作だが 、 タイヤが少し回転してしまえば左足は完全にフリーであり 、 D レンジに入れておけば 、 後のシフト操作はすべて車側にお任せである 。 連結でしかも GCW50t という条件だが 、 発進も図太いトルクで慎重にクラッチをつなげばジャダも起こさず実にスムーズ 。 自分でも運転がうまくなったと錯覚するほどである 。 シフトスケジュールも車速とアクセル開度を検知して最適ギアを自動的に選択 、 飛びシフトで燃費も稼げる 。
 もっとも 、 減速時は自動的にダブルクラッチを行う賢さだが 、 回転合わせのエンジン回転跳ね上がりはどうしても違和感を払拭できない 。 機構的にやむを得ないが……制御の熟成を望みたい 。 ( 菊地 )


右側が今回試乗した 「 R115HR 」 を装着した FV-R セミトラクタ 。
バンパ右前に取り付けられているのは速度計 。
左側は新開発 16 段 INOMAT を搭載した FV-R セミトラクタ


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