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バスラマインターナショナル 2001 年 1 月号掲載




下津井電鉄株式会社
バス事業部 取締役部長
野上 荘平氏
下津井電鉄株式会社
高速バスドライバー
班長 宮脇 勇氏




環境変化に伴い使用条件も過酷に ― 昨今旅行用バス事情

 高速道路網の発達により,観光バスや高速バスなど旅行用バスの高速化や長距離化が進んでいる。一方,バス業界では需給調整規制の撤廃−−いわゆる参入規制緩和を前にコストダウンが声高に叫ばれるようになっている。
 乗合バスより一足早く規制緩和が進んだ観光バス業界では,平成9年度から平成11年8月までの間に全国で 800社近くが新規参入,バス旅行の需要そのものは微増もしくは横ばい傾向の中で大変な競争の時代が始まっている。当然その影響は旅行単価に反映され,利用者は歓迎しているといわれる一方,限られた時間で多くの観光地を回るなど,旅行内容でも競争は激化している。また大都市やテーマパークでのフリータイムに主眼を置く「都市間バス移動+ホテル」といったパッケージツアーも普及している。バスは単なるトランスポーターで,道中は高速道路をひたすら早く走り続ける形になる。
 一方の高速バスはJRが長年にわたって運賃を据え置いていることから,運賃改定しづらい環境に置かれていたが,航空運賃の自由化のあおりを受け,航空便が結ぶ都市間の高速バスでは需要の陰りが否めない。
 旅行用バスを取り巻くこうした環境の変化を受けて,事業者はドライバーの人件費抑制,車両の仕様を抑えて購入価格を下げる,さらには車内サービスの省略などのコスト削減策に乗り出している。しかし監督官庁も,競争の促進を歓迎する一方で,輸送の大前提である安全の確保は逆に“規制強化”を打ち出して,コスト削減競争を繰り広げる業界を牽制している。いまさらいうまでもなく,安全であることは経済的であることであり,安全性を無視した競争を歓迎するほど利用者は愚かではない。
 こうした業界の動きの中で,安全性への投資を積極的に打ち出す事業者がないものかとアンテナを張っていたところ,岡山県の下津井電鉄がリターダ供給メーカーの日本リターダシステム(以下NRS)から顕彰されたという情報がもたらされた。関西取材に合わせて岡山市内の同社を訪問した。ご対応いただいたのは同社バス事業部・取締役部長の野上荘平氏と観光課係長の藤原保志氏,高速バスドライバーの班長・宮脇 勇氏である。
流体式リターダを装着した高速車の例(日野KC-RU4FSCB)


コスト削減と同時に進む需要開拓,でも安全確保が大前提

 下津井電鉄は本誌・12のバス事業者訪問でもご登場いただいたが,2000年3月に貸切バスの大部分である60台を,下電ツアーサービスの名で分社化,現在は一般乗合車91台,高速路線車9台,貸切車10台の新体制を整えている。この10台の貸切車は従来からの地元の需要に即応するために残しているものという。
 岡山県はもともと瀬戸内海沿岸(県南部)に人口集積が進んでおり,バス需要も“南高北低”の傾向があるというが,需要の減少傾向は全県に及び,各事業者の採算性も悪化している。貸切部門の分社化も規制緩和への対応だが,夜行高速バスにも,航空会社が岡山空港で駐泊して,早朝初の東京行が設定された影響が出てきたという。こうしたことから今後は高速車両でも更新時期を迎えた車両についてはスーパーハイデッカーからハイデッカーに変更するなどコスト削減を計画しているという。
 一般路線では70歳以上の高齢者向けの「寿パス」で需要を伸ばしたり,通学定期券の割引率を拡大して利用促進に手応えをつかむなど,利用者ニーズの掘り起こし策も積極的に進めるが,やはりコスト削減は大きな課題という。しかし安全面のこだわりも一貫しており,経営者も安全上必要なものは外せないという考えに徹しているそうだ。
 同社がNRSの顕彰を受けたのは,NRSが国内で扱った流体式リターダが1万台を達成し,この記念すべき車両が同社の高速車(日野KC-RU4FSCB)であったことによる。


夜行便には必需品の流体式リターダ

 同社がリターダに接したきっかけは,1982年に購入された輸入2階建てバスが渦電流式リターダを装着していてドライバーに評価されたことによる。古いドライバーの中には,それ以前にも2サイクルエンジンのリターダ装着車を体験している者もいたが,当時の完成度はまだ低く,評価が得られるものではなかった。しかし,国産バスでリターダ装着車が選択できるようになるには時間がかかり,1994年に購入した高速路線用の日野セレガから流体式リターダの採用が始まった。その後,現在は分離した貸切車の一部に永久磁石式リターダが採用されるなど,多くのドライバーがリターダを体験するようになり,その評価も次第に確固としたものになっていく。
 現在下津井電鉄の高速バスは東京線の夜行便と四国方面の昼行便が運行されているが,特に夜行の場合は「お客様には少しでも静かな車内で休んでいただくために」排気ブレーキは使用せず,ほとんどリターダだけで減速しているという。しかし導入当初から問題なくリターダを使いこなしてきたわけではない。日野車の場合,リターダ装着車は通常の排気ブレーキレバーがリターダスイッチになり,排気ブレーキのスイッチがダッシュボードに新設される。これでは排気ブレーキをかけようとするために運転姿勢も視線も変えなければならない。そこで現行のリターダスイッチのそばに排気ブレーキのスイッチレバーを移設したのである。これにより運転姿勢を変えずに,指先だけで排気ブレーキもリターダも選択できるようになった。これでリターダに対する評価はグンと高まった。一方,オプションで採用していた強化型エンジンブレーキは外してしまった。流体式リターダがあれば通常のエンジンブレーキで十分だからである。以降,高速車の購入に際しては必ずリターダを装着の要望を出しており,経営者サイドでもその要望に応えてくれているのだそうだ。「たまにリターダが付いていない車両で増発運行すると,帰ってきたときの疲労度が全然違います」というドライバー氏の意見は実感がこもっていた。

宮脇さんが手を添えているのがリターダレバー

排気ブレーキレバーをリターダレバー近くに移設して操作性が大幅に向上した

メンテナンスコストはさらに削減の余地も?

 今回の取材を通じて気づいたことも2つある。ひとつは同社のドライバーがベテランであるからであろう,乗客に対するショックを与えないことを最優先にしているため,そして常に余裕ある車間距離を保っているため,リターダは4段階の内の1〜2段の常用にとどめていることだ。リターダを知っているトラックドライバーは最初に3段に入れて,十分減速してから序々にリターダの効果を緩めるという使い方をするのが一般的だが,あくまでソフトにショックなく,という減速が旅行用バスのベテランの操作方法であるようだ。ならば吸収トルクがもっと小さいものでもいいとも思うが,事故を回避するような場合は別として,通常は排気ブレーキ併用は昼間だけにしたいし,吸収トルクが大きい方が安心感も大きいという。それが乗客を預かる立場のバスドライバーの意識なのだろう。
 もう一つ,同社では車両整備も外注化し,リターダのオイル交換は5万キロで実施しているというが,NRSのエンジニアによれば10万キロは十分持つという。聞けば整備を任せている販売会社系の工場ではマルチグレードのオイルのみをストックしており,リターダのオイルはマルチグレードである必要がなくても選択できない事情もあるようだ。交換のタイミングとも関係するが,オイルの性状分析などを行った上でシングルグレードでオイル交換インターバルが延びるとすれば,こんなところにもコスト削減の余地があるのかもしれない。



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