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月刊コマーシャルモーター 2002年5月号掲載





 トレーラを牽引するトラクタは“第 3 のブレーキ”あるいは“第 4 のブレーキ”といわれるリターダ(補助ブレーキ)が改めて見直され始めている。 というよりも、 エンジンの小排気量&高馬力化で補助ブレーキが不可欠な条件となっており、 欧州車の最新モデルを中心に流体式リターダの標準装備化が進んでいる。 連結車制動対策のいまを探る。

小排気量&ターボ+多段ミッション
 ディーゼルエンジンの世界は、 出力特性を重視した自然吸気の大排気量&大馬力の時代から、 排ガス低減と省燃費を目的に過給(ターボ)を生かして小排気量で高出力を絞り出す“小排気量&高馬力”の時代を迎えている。
 その端的な例がこのほど発表したボルボトラックの新モデル( FH / FM 12 )である。

トランスミッション部に装着する流体式リターダ
 日本市場で着実に実績を伸ばしているボルボトラックは、 9 年ぶりのフルモデルチェンジでエンジンシリーズを12リットルエンジンに一本化、 重トラクタ用の 16 リットルエンジンを廃止した。 重トラクタ用の高馬力仕様は、 排ガスエネルギーをターボとクランクシャフトの回転に活用する “ ターボ・コンパウンド ・ システム ”の採用で 12 リットルながら 500 馬力を実現、 小排気量&高馬力を実現している。 メルセデスベンツの大型トラック(アクトロス)も、 12 リットルエンジンが主体であり、 欧州のトラック&トラクタは「小排気量 + インタークーラターボ + 多段ミッション」の組み合わせが主流となっている。

オイルの流れを制動力に変える
流体式リターダの原理
 国産エンジンにおいても、 これまでユーザーが好む自然吸気の大排気量エンジンを主体に開発が進められてきたところだが、 近年は高速用トラクタで13リットルクラスのターボ付きエンジンが登場、 重トラクタ分野でも 17 リットルクラスで 560 馬力を絞り出すターボ仕様エンジンが投入されている。 国産車は欧州車に比べ排気量が比較的大きい設定となっているが、 開発の方向は欧州車と同じベクトルにあるといっても過言ではない。
  社会的要請である排ガス低減とユーザーが求める省燃費 ―― この両立を図るにはエンジンの基本設計として過給による燃焼効率の向上(出力向上)、 つまりターボ仕様が最適な選択であり、 結果的に小排気量&高馬力を目指すことになる。 日米欧とも強化される排ガス規制は “ 小排気量 & 高馬力化 ” にさらに弾みをつけることになるのは間違いないだろう。

流体式リターダの構造
1.ミッション
2.ギア
3.ステータ
4.ロータ
5.オイル
6.オイルクーラ
7.プロペラシャフト

エンジンブレーキが利きにくい方向
 この小排気量化で課題になるのがエンジンブレーキの制動力低下である。
 ピストンの圧縮工程で生じる反発力を制動力に変えるエンジンブレーキは、 パワータードに代表されるように圧縮工程と排気バルブを連動、 機械的にエンジン内制動性を強めたエンジンブレーキシステムが大型車に装備されるようになったが、 小排気量化はこのパワータードの効果を低下させるほか、 排気量を前提とする排気ブレーキ力も低下させる。 加えて、 高速走行向け大型トラック & トラクタで省燃費を目的にファイナルギア比のミニマム化の方向にあるが、 これもエンジンブレーキの利きを低下させる結果に作用する。
 制動力の確保で最も重要な役割を果たすのは、 フットブレーキであることは言を待たないが、 このフットブレーキに制動力のすべてを頼るわけにはいかない。 フットブレーキの連続使用は、 加熱でブレーキドラムやライニングが膨張して制動力が低下(フェード現象)するほか、 吸湿性の高いブレーキフルードに含まれた水分が沸騰、 フルード内にエアが生じて制動力を著しく損なう(べーパーロック)危険がある。 このため、 大型車、 特に慣性重量の大きい連結車では、 エンジンブレーキ(パワータード)や排気ブレーキの併用が不可欠なわけだが、 エンジンブレーキや排気ブレーキの制動力低下で見直されているのがフットブレーキと排気ブレーキに次ぐ第 3 のブレーキ、 あるいはエンジンブレーキを含めた場合の第 4 に位置づけられるリターダである。
 ボルボトラックの 500 馬力仕様の重トラクタ(新型)にリターダを標準装備、 メルセデスベンツも今後日本市場で販売するトラクタにはリターダを標準装備することを明らかしている。 国産トラクタにおいても、 三菱のトラクタ全車種に欧州車と同様の強力なリターダ(フォイト/ NRS )が 00 年モデルからオプション設定されており、 実績としてもすでに FV タイプで 30 % 以上に搭載されている。

連結車は水冷&流体式が最適な選択
  補助ブレーキのリターダは、 オイルの流れを制動トルクに変換する流体式と電磁誘導の力を利用した電磁石式に大別できる。
  流体式リターダは、 大きな制動トルクが得られる半面、 水冷式で装置重量が重く、 冷却配管の取り回しなど後付けに不利である。 電磁式リターダは、 制動トルクこそ小さいが空冷式で装置重量も軽く、 電気配線だけ取り付けが簡単で後付けに有利である。
 それぞれ一長一短があるが、 慣性重量の大きい連結車の場合、 1000 Nm 以上の制動力を確保できる流体式リターダが選択される。
 流体式が選択される理由は、 大きな制動トルクが得られるということもあるが、 水冷式ということが挙げられる。 というのは、 制動力の発生は熱に置き換わるわけだが、 発生した熱を効果的に逃がす必要がある。 フィンを使った空冷式は限界があり、 熱が一定以上になると、 自動的にリターダが切れるようになっているが、 放熱容量が大きいラジエータ温水を冷却に使う流体式リターダはこの点有利である。 現実問題としては冷却水の温度が一定以上なると、 制動トルクを絞るようにセッティングされているが、 制動トルクがいきなり切れることはない。 また、 ボルボトラックの新型重トラクタの場合、 リターダのスイッチを入れると同時に、 電動ファンを回してラジエータの冷却性能を事前に高めるようにセッティング、 リターダから戻る高温水に対応する予防冷却システムを組み込むなど流体式リターダの使い方も高度になっている。
<フットブレーキの使用抑え平均速度向上>
 一方、 リターダ活用のメリットは、 安全な運転実現に加えて、 もうひとつ、 ブレーキのメンテナンスコストの低減が挙げられる。
 中期ブレーキ規制が実施された以降、 トレーラ側にかかる制動力の負担が大きくなっており、 ブレーキライニングの摩耗が極端に早くなっている。 山坂が多い日本の道路事情では、 フットブレーキによる減速調整の頻度が多くなりがちだが、 車両総重量(連結)が 30 t を超える重量車を速度の微調整とはいってもフットブレーキだけで対応するには無理があり、 フットブレーキに頼った走りはライニングの摩耗を早めることになる。 この点、 スイッチ操作のリターダあるいは排気ブレーキ & リターダで減速すれば、 結果的に運転疲労軽減とライニングの摩耗抑制につながる。
 車の必須条件である走る ・ 曲がる ・ 止まるの中で最も大事な要素は「止まる」部分であり、 特に慣性重量の大きい条件で走るトラクタは安全強化の面から、 リターダ装着が進むものと予想される。 ちなみに、 欧州におけるリターダの位置づけは、 連結車の安全運行を実現するということもさることながら、 リターダのもつ制動トルクの持続性を生かして長い下り坂でも一定速度で走行、 結果的に平均速度を向上させるメリットを重視して選択されている ―― 日本市場でもリターダの新たな見直しが期待されるところである。



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