月刊ニューとらっく 2002年5月号 掲載

……………「ダイムラー・ふそう」の誕生を見越した攻めのマネージメント?
……………世界第3位の大型車メーカーとの協業化で加速する
……………蛇川日野のグローバル戦略
蛇川日野の動きが急だ。 昨年 6 月、 子会社化に伴い、 トヨタ自動車副社長から新たに日野自動車トップに就任した蛇川忠暉社長は、 昨年末、 12 年ぶりのフルモデルチェンジとなる新型レンジャープロを発表したのを皮切りに、 年明け早々、 凍結していたいすゞ自動車とのバス事業統合化の推進を発表。 さらに完成車の現地組み立てをはじめとする米国市場への進出決定、 日産ディーゼルへの中型トラック用エンジン + 排ガス低減後処理装置の供給など、 矢継ぎ早にビッグニュースを発信してきた。 そして 3 月 25 日、 いよいよ欧州の商用車メーカーとの協業化が発表された。
日野が選んだ相手は、 大型トラックではベンツ、 ボルボに次いで世界第 3 位となるスウェーデンのスカニア社。 製品面、 販売地域面で互いにバッティングする部分が少なく、 むしろ相互補完により実りある関係を構築できるとの判断から協業化に至ったもので、 両社が協業することにより商品力およびコスト競争力を強化、 以て売上高・収益の拡大を図ることを目的にしている。 また、 ディーゼルエンジンの環境への影響を更に低減するために、 両社の環境技術ノウハウを結合させることにより、 この分野での優位性の強化を図ることも併せて謳っている。
3 月 25 日夕刻に行われた記者発表での蛇川日野社長、 K ・リンドグレン スカニア社副社長のコメントを聞いてみよう。 まず、 蛇川社長の話の要約である。
「本日、 欧州における優秀な商用車企業であるスカニア社との協業協定に調印した。 今後両社が協力し、 世界の商用車市場で発展するための関係を築くことになったことは大変喜ばしいことだと思っている。 お互いの経営資源を有効に活用し、 強みを更に発展させ、 お互いの弱みを補完しあいながら、 世界の理想物流に貢献していきたいと考えている。 そのためには、 環境問題、 エネルギー問題等、 地球規模での課題に両社が協力しあって解決することが最も大切なことだと認識している。 日野自動車は、 日本市場において大型・中型トラックで 29 年間トップシェアを獲得し、 1966 年以降トヨタグループ企業としてやってきたが、 昨年トヨタの子会社化も果たし、 グループの商用車部門を担う位置づけを明確にした。 トラックビジネスを更に強化するためにも、 今回スカニア社との関係を確立。 両社の力を合わせ、 お客様に喜んでいただける商品を提供していきたいと考えている。 競争が激化している商用車業界において、 お互いが存在感のある企業として生き残っていくために、 長期にわたり今後協力しあっていく計画である。 当然、 生まれも育ちも違うパートナーとしてやっていくためには、 最初から大きなことを目指すのではなく、 一つ一つの課題の積み重ねによって、 信頼感を増していこうということで両社の意見が一致している。 『小さく生んで大きく育てる』を合い言葉に、 今後の協業を進めていきたいと思っている。 今回の調印で合意した内容は、 両社の更なる発展のために長期的な協力関係を築くことを目的に、 当面の検討課題としては、 (1) スカニア製トラクタの日本市場における日野ブランドでの補完的販売。 (2) 日野製 7 〜 8 リッターエンジンのスカニア製品への採用可能性の共同評価。 (3) エンジン排ガス技術分野での技術交流……の 3 点を検討しているが、 今後なお長期的に様々な問題を協議していきたいと考えている。 なお今回の協業化については、 日野自動車の大株主であるトヨタ自動車、 スカニア社の大株主であるフォルクスワーゲン/ボルボの了解の下に調印に至っている」。
また、 スカニア社の K ・リンドグレン副社長のコメントの要約は次の通り。
「今回の調印に至るまで比較的長期に渡って話し合ってきたが、 その結論として、 両社にとってお互いの存在価値が非常に大なるものがあるとの理解が深まり、 協業化に合意できた。 まず第一に、 両社は企業活動の焦点を製品とその開発に置いているという共通点がある。 第二に世界各地の商用車市場において、 両社がぴったりとした補完関係にあることがあげられる。 この 2 点は、 これから両社が長期的な関係を築きあげていく上で、 大変重要な要素になると考えている。 我々としては、 日野自動車という日本で最も主要なメーカーと手を結ぶことができ大変名誉に感じている。
スカニア社は、 GVW 16 トン以上の非常に広範囲な車種を製造しており、 ヘビーデューティートラック、 すなわち大型トラック部門においては世界第 3 位のメーカーである。年間約 5 万台の大型車両を販売しており、 昨年の売り上げは約 50 億ドルに達する。 トラックのほかのバスも製造しており、 生産台数の約 1 割がバスである。 スカニア社は 1891 年に創立され、 昨年は創立 110 周年の式典を行った。 我が社の特徴としては、 モジュール方式の製造方法があげらるが、 これは幾つかのモジュールの組み合わせによって殆ど無限大の数の車種を製造できるものである。 主な事業としては、 3 つの柱があり、 まず 1 つは車両そのもの、 2 つ目が車を販売した後の修理・整備・維持といったアフターサービス関連、 そして 3 つ目が顧客に対する金融サービスの提供、 すなわちカスタマーファイナンスである。 車両の販売は、 平均して年間 5% の割合で伸びているが、 アフターサービスは約 16% 、 カスタマーファイナンスは約 35% という高率で伸びている。 これは車そのものが売れなくても、 アフターサービス等で十分な収入が得られることを意味し、 ビジネスのサイクルを円滑にしていると言える。 また、 我々の生産システムは世界にまたがっており、 車両は主にヨーロッパで造り、 部品は主にスウェーデンで調達。 南米にも大きな生産拠点を持つほか、 アフリカやロシアにも組み立ての拠点を持っている。 全世界の 100 ヵ国以上で事業を展開しているが、 販売拠点は約 1000 箇所、 補修その他のワークショップ・工場は約 1500 箇所である。 シェアは、 ヨーロッパで 14 〜 15% 、 ラテンアメリカでは 20% で、 特にブラジルでは 30 〜 35% となっている。 最後に、 現在のスカニアの株主の構成をご紹介すると、 ご案内の通り、 ここ数年来、 我が社の株主構成は複雑な状況を見せており、 それは 1999 年 1 月、 ボルボの敵対的併合、 すなわち M & A のターゲットにされたことも一因である。 その後、 欧州連合がきちんと成立し、 独禁法抵触対応機関がボルボに対してスカニアにおける株主権の行使を禁止する裁定を下し、 さらにまた、 現在ボルボが保有している株を 2004 年の第一四半期までに売却するよう行政命令を出している。 つまり、 ボルボはスカニアの業務に対し、 何ら影響力を行使することが出来ないということである。 現在フォルクスワーゲンが約 34% の株を保有する大株主で、 さらにまたスウェーデンにおける産業 ・ 工業の雄と言われるヴァネンバーグ家という家系があるが、 ここが 20% のスカニア株を保有している」。
なお、 記者発表の後に行われた質疑応答では、 蛇川社長は、 日野がスカニアをパートナーに選んだ理由として、 スカニアに北米進出の意思がないこと、 さらに中型トラックの分野を持っていないことが大きな決め手になったと語り、 地域や製品でバッティングせず補完しあえるという両社の関係の具体例を明らかにした。 また、 スカニア製トラクタの導入はおそらく 2004 年からで、 低床トラクタやハイルーフトラクタが第一候補になっていること。 日野ブランドでの販売に対してスカニア側から抵抗もあったが、 日野としては型式認定を取って販売する意向で、 マーケットに対し日野がきちんとサポートする証と理解してもらったという。 また、 今回の交渉に際して、 親会社のトヨタ/フォルクスワーゲンが直接交渉したということは全くないが、 協業の合意に至ったことを喜んでおり、 トヨタと VW が依然良好な関係にあるのではないかと推察しているという。 なお今回の協業は、 株式持ち合い等の資本関係を含むものではなく、 実際に日野自動車には資金がないので全く考えられないとし、 リンドグレン副社長のコメントにあったボルボの保有株をトヨタが購入する可能性についても、 考えがたいとの見解が示された。

世界第3位の大型車メーカー、 スカニアのトラクタ
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協業化の記者発表の席上。握手を交わす 蛇川 日野社長とリンドグレン スカニア副社長
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さて、 この日野/スカニア協業化が発表された翌々日には、 ダイムラー・クライスラー出身のロルフ・エクロート氏が 6 月に三菱自動車の社長・ CEO に就任することが決定。 その後ほどなくして、 ダイムラーが三菱自動車のトラック部門を実質的に子会社化する方針とのニュースが伝わった。 乗用車部門は未だ厳しい状況にあるため、 三菱自動車本体の子会社化は当面棚上げし、 黒字に転換し競争力のあるトラック部門の分社化と同時に、 ダイムラーの子会社化が図られるとの観測だ。
日野自動車の矢継ぎ早の協業化・グローバル化は、 この仮称「ダイムラー・ふそう」の誕生を見越しての戦略と見るのは、 穿ちすぎだろうか。 世界ナンバーワンのトラックメーカーと日本市場で覇権を争う三菱ふそうの合体に、 日野が危機感を抱かないはずがない。 といっても、 それは日本市場での直接対決といった、 コップの中の争いを想定したレベルではないだろう。 これからのトラックメーカーの闘いは、 マネージメントの闘いである。 ガチンコ勝負でお互いが血を流す闘いは、 過去の遺物。 体力勝負をする体力が残っていないから、 もはや頭で勝負するしかないのだ。 蛇川日野が進めている協業化・グローバル化戦略もまさに頭を使った闘いである。 「 2010 年グローバルビジョン」で世界シェア 15% の獲得を目指すトヨタ、 その商用車部門・日野自動車には、 より一層攻めのマネージメントが求められている。 日野の協業化・グローバル戦略は、 まだまだ第二幕がありそうだ。
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