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故リューディガー ・ ウェーバー工学博士 ・ 教授 ( 1993 年 没 )に捧げる
ラインホルト ・ ピティウス
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1980 年代中頃 、 商用車へのリターダ導入が増加したので 、 ドイツの社団法人自動車技術研究協会 ( FAT ) は 、 トレーラートラックにおける制動技術の安全性について調査することにした 。 リターダは摩擦の無い連続ブレーキであり 、 商用車の駆動系に取り付けられる 。 そのため制動力は駆動軸の車輪にのみ生じる 。 リターダとサービスブレーキ ( フットブレーキ ) との間の相互作用について 、 駆動軸に起こるオーバーブレーキの問題について 、 車輪接地摩擦の条件が低い場合と走行力学上の限界領域で調査された 。 このテーマには自動車産業界もトレーラーメーカーも多大な関心をよせた 。 そのため FAT はハノーバー大学の原動機走行研究所に委託し 、 リターダを装着した 2 軸の単独車とセミトレーラー及びフルトレーラーの 3 車種について 、 ブレーキリアクションと走行力学を調査することにした 。
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1 はじめに
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1980 年代には 、 リターダは技術上の概念が見直されて制動性能も増し 、 例えばサービスブレーキのライニングの摩耗が減少するなど経済的メリットが増えたため 、 商用車へのリターダ導入が増大した 。 電磁式および流体式のリターダによって生じる制動トルクは 2500 〜 3000Nm にも達した 。 リターダの制動力は駆動される軸の車輪のみに働くため 、 車輌のブレーキの安定性に悪影響を及ぼしかねない 。
ブレーキ反応の判断は考えられる要因の研究調査をもとにシミュレーションモデルを使って行われた 。 シミュレーションモデルは前もって 2 種類のリターダの特性曲線を測定して 、 その信頼性を確認した 。 この方法で 、 種類の異なる構造をもつリターダのレスポンス特性も 、 制動作用中に変動する回転数に対する特性曲線も実際にシミュレーションされることになる 。 リターダモデルはメーカーのフォイト社とテルマ社の協力で 、 試験台での測定をもとにして信頼性が確認された 。 この 2 種類のリターダは 、 実験用トラックとなる総重量 16 トン の 2 軸車両のプロペラシャフトに 、 二次的リターダとして取り付けられた ( 図 1 ) 。 リターダが作動した場合もしない場合も 、 単独車の横及び縦方向の運動は 、 シミュレーションで詳細に再現され 、 限界領域での危険な走行の場合も 、 また試すには適切な試験走路がないような走行の場合も調査することができた 。
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2 自己防護作用
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リターダのトルクはディファレンシャルによって 、 基本的には同率で車輪の駆動軸に配分されるという事実に基づき 、 接地摩擦の条件が悪い場合には 、 リターダのいわゆる走行力学的自己防護作用が生じる 。 タイヤと路面間の接触条件により 、 後輪の一つが摩擦の限界に達すると 、 この車輪はリターダトルクによって大きく減速させられる 。 同時に 、 まだ摩擦の限界に達していない他の車輪は 、 車輪の外周で殆どスリップせずに 、 車両の走行速度に相当する車輪のころがり速度に近くなる 。 プロペラ軸の回転数は車輪の回転数の中間値に比例して下がる 。 プロペラ軸にあるリターダの回転数とトルクは 、 そのトルク特性曲線に応じてオーバーブレーキのかかっている車輪にトルクバランスが生じるまで減少する 。 サービスブレーキによるオーバーブレーキと違い 、 この場合はブロッキング 、 つまり車輪の停止状態にはいたらない 。
オーバーブレーキのかかっている車輪にはまだ残留回転数があり 、 あるいは速度が高く摩擦係数が低い場合には逆回転さえしかねないが 、 一方 、 もう一つの車輪はディファレンシャルのため 、 回転数がほとんど変わらずスリップもわずかで 、 低い制動トルクがかかるだけである 。 これによって横方向の保持力を保ち 、 オーバーブレーキにもかかわらず車輌に方向安定性を与える 。 μ - スプリットでの直線走行における走行実験で 、 そのような異常な状態がほとんど車輌が停止するまで続くことが示された 。 リターダの制御が ABS システムによって監視されていない場合には 、 ディファレンシャルのこの機能によってリターダで制動されている単独車を 、 制御できない状況からある程度まで守る 。
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3 カーブでの制動
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同じく ABS の制御無しで 、 カーブでのリターダの制動を観察すると 、 その自己防護作用はここでも同じように発揮される 。 カーブ外側の車輪への荷重移動によってカーブ内側の車輪がまず摩擦の限界に達して 、 上記のようにオーバーブレーキがかかり 、 一方ではカーブ外側の車輪が 、 車輪荷重がおおきいため 、 ほとんどスリップせずにころがる 。
オーバーブレーキのかかったカーブ内側の車輪は 、 カーブ走行のための横方向保持力をほとんど働かせていないので 、 カーブ外側の車輪がそれを受け持つことになり 、 簡単にオーバーステアリング状態の走行特性及びブレーキリアクションへと至る 。 その場合 、 走行動力学上の限界領域は 、 横方向の加速と 、 タイヤと路面の摩擦係数に左右される 。 雨で濡れた路面で横方向の加速が 2 〜 2.5m/S2 の場合 、 リターダを最高段に効かしている空の車輌のブレーキリアクションは 、 この自己防護作用のためにまだ制御可能といえるものであった 。 2 種類のリターダ作動原理の違いは 、 個々のプロセスの分析に見ることができた 。 しかし両者とも 、 最終的には駆動系に同じようにこの自己防護作用を示したことが確認された 。
積み荷を積んだ車両の場合 : 後軸でオーバーブレーキのため運転者による軌道修正が必要になる程に車輪でのリターダ制動トルクが大きくなるのは 、 極端に滑りやすい路面のみである 。 いずれの場合もリターダで制動される単独車は 、 リターダが ABS 制御されるなら 、 問題無く制御可能である 。
サービスブレーキとリターダを同時に使う場合 、 手動による併用であろうが 、 リターダ作動装置をサービスブレーキに組み込んだ一体型であろうが 、 ABS が作動すればすぐに 、 また持続的に 、 リターダを切らねばならない 。 でないと 、 ふたつのブレーキシステムのレスポンス特性が非常に異なるため 、 制御の難しい相互作用が起きるからである 。
ABS 制御無しでリターダ制動にサービスブレーキのトルクを重ねると 、 上記の自己防護作用が発揮されず 、 駆動軸のふたつの車輪がブロックされ 、 横方向保持力が失われることになる 。 一つの車輪にオーバーブレーキのかかった状態で突然にサービスブレーキのトルクがリターダ制動されている車輪に重なると 、 先ずオーバーブレーキのかかった車輪はブロックされ 、 他方の車輪も同様に突然減速させられ 、 ブロックされる 。 この状況が実地で関連してくるのは 、 摩擦係数の低い路面上で空の車両の場合のみである 。 ABS を使うとそのような状況は排除できる 。
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4 セミトレーラでのリターダ
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次のプロジェクトでトラクタにリターダを取り付けたセミトレーラーのブレーキリアクションを調査した 。 シミュレーションモデルがこの車両編成に拡大し走行実験によって確認された 。 危険な走行として 、 一定の円周走行から制動をかけ 、 色々な接地摩擦条件で詳細に調査された 。 この場合は特に 、 駆動軸のオーバーブレーキによって生じることが懸念される 。 セミトレーラーの折れ曲がり作用 ( ジャックナイフ ) に着眼した 。 広範囲なシミュレーション計算によって 、 危険な状況が発生するのは 、 空のセミトレーラーが滑らか路面上にあり 、 横加速が約 2.5m/S2 以上の場合のみであることが示された 。 単独車と同様 、 一つの車輪だけに片寄ったオーバーブレーキとなり 、 その車輪は横方向保持力の役にたたない 。 しかし単独車とは対照的に 、 3 軸トレーラーの直進性のため 、 トレーラーの横振れが駆動軸の横方向保持力を落ち込ませる 。 その結果は図 2 に示しているように 、 セミトレーラーが突然にカーブ内側へ折れ曲がる 。 この状況での効果的な対策としてあげられるのは 、 ABS のみである 。
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図 2
リターダのかかったセミトレーラの 走行シミュレーション
・ 左は滑りやすい走行路
・ 右はグリップのある走行路 ( 円周路 )
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積み荷を積んだセミトレーラーの場合 、 車輪での制動力はタイヤ接地力に比べ小さいため 、 摩擦係数が低い場合でも 、 リターダのトルクによって接地摩擦の限界に達することはなく 、 オーバーブレーキは発生しない 。 また 、 セミトレーラーのブレーキリアクションについては 、 異なる構造のリターダを設置した場合でも数量で表現し得るような差異は見られなかった 。
リターダ制動にサービスブレーキが重ね合わされると 、 カーブで制動をかけて走行動力学上の限界領域で走行しても 、 リターダ単独での制動の時よりも危険性が少ない 。 これは 、 トレーラーもまた制動作用を生み出し 、 駆動軸がオーバーブレーキ状態だと 、 車両列をほぼ伸ばした状態に保つからである 。
ポールトレーラーとセミトレーラーを比較すると前者は 、 接地摩擦の限界へ達したとき 、 より不都合な特性を示した 。 これは 、 牽引用バーから車両後部のトレーラー連結部へ伝達される連結エネルギーの作用点が 、 後方へずらされているためである 。 安定した走行特性の限界へ与える影響については 、 タイヤ / 路面の摩擦係数の色々な変数に基づいて明確に示すことができた 。 非常に滑らかな路面で 2 連のトレーラートラック ( セミトレーラーもポールトレーラーも含めて ) では 、 車両が空で突然に最大のリターダトルクで制動した場合 、 直線走行でも折れ曲がり ( ジャックナイフ ) が発生することがある 。 任意の ABS を使うといかなる危機的状況も回避できる 。
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5 フルトレーラー
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セミトレーラーに続く調査の第三段階では 、 中欧で重要視されているフルトレーラーを使って 、 リターダのブレーキリアクションについて調査した 。 リターダ制動した場合 、 車両の重力もしくは積載状況に左右される度合い 、 また回転継手 1 個分拡大された動的連結において 、 セミトレーラーとフルトレーラーの縦方向の走行動力学的特性には本質的な違いがある 。 選択した走行に対応した測定をして 、 フルトレーラーへ拡大されたシミュレーションモデルの信頼性を確認した後 、 フルトレーラーの走行特性を色々な走行条件で特定した 。 先立って行われた調査に基づき 、 主要な着眼点は 、 フルトレーラーのリアクションと色々な積載状況に向けられた 。 動力車に荷物を積載している場合 、 トレーラーには荷物を積載してもしなくても 、 摩擦係数 μ が減少しつつある場合わずかにオーバーステアリングとなる横振れを示すが 、 これはいつでも運転者によって制御できるものである 。 空のフルトレーラーではこのカーブ内側へ向かう横振れは 、 トレーラーの直進性と連結力の横方向分力のため 、 ずっと際立ったものとなる 。 しかし 、 これは μ=0.45 及び約 2.5m/S2 の横加速ではまだ 、 危機的な走行特性へと至らしめるものではない 。
最も不都合な積載状況は 、 牽引車両が空でトレーラーに積載荷物があるフルトレーラーで 、 上記の実績パラメーターの場合 、 安定した制動特性の限界に達してしまう 。
トレーラーが直進走行する大きな質量のため 、 牽引車両では連結エネルギーの横の分力が増大し 、 これは制動される後軸の横方向保持力を短時間のうちに失わせるものである 。
シミュレーションでは運転者が軌道修正をせず 、 ABS も無しで走行した場合 、 フルトレーラーの折れ曲がり ( ジャックナイフ ) となった。
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図 3
フルトレーラ走行シミュレーション
動力車は空 、 トレーラーは積載
μ=0.45 、
・ 左は ABS 無し
・ 右は ABS 装備
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しかしながら同じ実験条件でリターダにサービスブレーキの制動トルクを上乗せすると車両列は伸ばされ走行は安定し 、 折れ曲がり ( ジャックナイフ ) にはならない 。 路面条件や積載条件が不都合でも確実なブレーキリアクションを保証するのはいずれにせよ 、 リターダの作動を制御する ABS である 。 図 3 は ABS の有無による走行の比較を示しており 、 どちらの場合も運転者による軌道修正は行っていない ( 円周路 ) 。
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6 まとめ
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二次的リターダを装備した 2 軸の車両の調査において 、 リターダ ・ 駆動系・走行動力学の相互作用の関係についての基盤が求められた 。 その際 、 電磁式及び流体式のリターダの異なった特徴が考慮に入れられた 。 2 軸の商用車で調査された 、 構造の異なる 2 種類のリターダには 、 縦及び横方向の動力学におよぼす影響に関しては明らかな違いは見られなかった 。 制動される軸で接地摩擦の限界に達しても 、 リターダ制動の単独車はリターダとディファレンシャルとが共同で作用するため 、 穏やかな反応をする 。
ABS を使うと 、 リターダを使っても確実な制動特性の限界をこえることが無いよう保障される 。 続いて行われたセミトレーラーとフルトレーラーの調査で 、 最も危機的な走行条件を見付けだすため 、 広範囲にパラメーターのバリエーションがとられた 。 どちらの場合でも 、 それはトレーラー牽引している空の牽引車もしくは空のセミトレーラーが 、 カーブで制動する場合であった 。 荷重のかかっていない駆動軸の横及び縦方向の力のため 、 また同時に働く 、 トレーラーの連結エネルギーの横方向の分力のため 、 ABS が無いと 、 摩擦係数が低くて横加速が約 2.5m/S2 以上の場合には 、 駆動軸のオーバーブレーキ及びそれに伴うトレーラートラックの折れ曲がり ( ジャックナイフ ) を排除することはできない 。 トレーラートラックにも積載もしくは動力車に積載している場合 、 オーバーブレーキの危険は無い 。 駆動軸にオーバーブレーキがかかるいかなる危険性も排除するには 、 リターダを ABS 監視システムに一体化することがすすめられる 。 走行安全性を保障し 、 運転者から求められる制動を可能な限り実現するためには 、 簡単な制御で事足りる 。 FAT から委託された調査は 、 リターダ導入が増大している今 、 起こり得る危険性を認識してそれを排除するためのものである 。 これによって 、 自動車産業研究は 、 交通安全 、 ここでは特に商用車の安全性を高めるための貢献を一歩進めたものである 。
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